2008年 02月 29日
シュプリッターエコー書評
1月5日からの「女流」展にご来場、ご高評を賜りました。
冷え切っていた、カラダの「芯」から、何か・・・が湧き上がってきました。
批評:
Cahier
小阪美鈴 Engli-sho(イングリッ書)
アルファベット。…いうまでもなく、ABCのことである。今からここで語るのはこの英語圏の文字列のことなのだが、しかしきょうだけは何か別の適切な呼び方はないものだろうかと思うのだ。できればABCに精神性の味付けをして例えば「聖アルファベット」だとか、ついでに神秘性も少しは加えて「聖フェニキア文字」だとか。書家・小阪美鈴が英語を墨書した軸作品「BELIEVE」をここでこのように論じるにあたっては(小阪美鈴書展 2008年1月5日~10日 神戸・TOR GALLERY)。
冒険である。間違いなく評価が分かれる作品である。小阪にしても、依頼者からの切実な要請がなかったなら、おそらくおいそれと踏み入ることのできなかった領域である。BELIEVE(信じる)。七つのアルファベットを縦に墨書して、軸装にした。二重の格闘があった。まず字形そのものが墨になじまないということ。そして横書きが習わしの書き方を無理やりに縦書きにするということ。だが仕上げられた書は、あたかも塔のようにそこに立った。むしろ漢字やかなよりも凛と立った。信じる、という魂の意志表示がまぶしいくらい現れた。ブッダの聖なる心を体したストゥーパのように。
伏線はあった。小阪はかなり前に「LET IT BE」(レット・イット・ビー)という作品を発表している。ザ・ビートルズの名盤から採ったモチーフだが、それは一瞬の噴火のように紙の上に現れた。ポール・マッカートニーの宗教的な内なるビジョンに根ざしたこの歌は、不思議なくらい東洋の知恵とも共振する。なるがままにまかせなさい…。ビートルズ解体の危機の中で、しかし危機ゆえに激しく、深く絶唱されたこの曲は、小阪を勇気づけ、解放し、共感が書の中で炸裂した。「LET IT BE」は、魂が疾走するような書になった。疾風のような作品になっていた。
今度の依頼者も初めは「LET IT BE」を所望した。それをやがて「BELIEVE」へと変更する。
「やっぱり、これ、これしかない、信じるしかない、って、そう彼女(依頼者)は言ったんです。しばらく熟考したあとで」
人はときにその一言にそれまでの全人生が響き渡るような、そのような深い一言をなすものだ。「LET IT BE」から「BELIEVE」へ…。生の曲折を経てきた女性にとって、二つの言葉の間には無限ともいうべき深い淵が横たわっていたはずだ。そこを越える大きな飛翔があったはずだ。小阪はそれを聞いたのだ。だから、書けた。高い、高い塔が立った。
さて、限られた字数の中でもう一点だけ作品を紹介しておきたい。こちらはオーソドックスに漢字とかなの文である。作品に採られた部分を、全文ここに書き出そう。こうである。「われらは全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利を有することを確認する」。
日本国憲法の前文である。
明るい、心のこもった書なのである。
2008.1.10 Tadakatsu Yamamoto
シュプリッターエコー
小阪美鈴オフィシャルサイト
by shobirei
| 2008-02-29 12:31
| 神戸の女流書家
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